悪は存在しない(2023)
監督 濱口竜介
ゴダール風のテロップで始まる…美しくそして不穏な森が描かれる…「悪者はいない」ことを描くだけなら森や動物は必ずしも必要ではない…しかしこの映画は野生との対比の中で何かが際立っている…誰もがそれぞれの事情の中でより良く生きようとしている…どこにも悪者はいない…一方で、そもそも善悪なんてものは人の思惑が作るものであって世の中は別の原理で動いている…無慈悲な自然の摂理があるだけ…それらをバタイユ風に言えば「まやかし」と「きまぐれ」…人は大したことができるわけではない…ほんとは自然を破壊することもできないし、進歩もそう見えるに過ぎない…ただ人が求める恩恵は、いつも人にとって不都合なことを招く…
近頃「神話」の必要性を問う言葉をよく見かける…自然の偉大さとか、人の未熟さとか、それらを教え伝えるもの…今なら「寓話」になるのかもしれない…この映画にも寓話的要素がある…キリンが我が子を守るためにライオンに立ち向かうように、一種の災いを絶とうとしたかのように見えた…まぁあまり正解を探り過ぎない方がいいのかもしれない…神話が神話であるということはそういうことだと思うし…
日本は放置林の問題を抱えている…戦後多くのスギやヒノキが日本全国で植樹されたものの、木材需要の低下や林業離れの影響により放置され、土砂災害、河川氾濫などの危険度が増している…花粉被害だけじゃない…よく見ると山はスギだらけだ…その殆どが放置されたスギではないのか…放置林は水質にも影響を与え、動物の棲家も奪っている…大気汚染や海洋汚染だけではない…山は文明の対となる自然の象徴なのかもしれないが、すでに汚染されている…バランスが崩れているというより、すべてのバランスは保たれる以外にありえないわけだけど…
https://www.more-trees.org
教授が創立した森林保全団体
クマが民家に降りてきたり人を襲ったりすることに関して…例えば自分が銃を持っていてクマが襲ってきたら射殺を試みるだろう…それに類する行為は優先して然るべきだ…猟師のことやクマの生態に詳しくはないが急場を凌ぐための処置は許容されていい…問題は歴史や現状の把握と今後の対策だろう…それは殺処分と同じ土俵で語れるものではない…もともとヒトもクマもシカも或る意味等しく暮らしていたのだと思う…でも人は欲張った…人口は爆発的に増え、生活圏も広がり、土地は固められ、森や川にも人の手が入った…私たちは恩恵しか見ない…だから人口爆発より少子化の方を問題にする…もっと全体を俯瞰することが必要だし、同時に、自分たちが何者なのかを知る必要があるのではないだろうか…
