Wunschloses Unglück 

幸せではないが、もういい(1972)
著 ペーター・ハントケ
訳 元吉 瑞枝

母マリアはオーストリアのケルンテン州で生まれた…東ベルリン時代を経て故郷へ戻り、51歳で死を選んだ…マリアは所謂一般人だが、生涯を終える頃すでにハントケはデビューしている…ヴェンダースとの出会いもこの頃だが前後はよく分からない…

ベルンハルトを引用して「…言葉で表現することはすべて、たとえ実際に起こったことについてであっても多かれ少なかれフィクションではないだろうか。…」と綴っている…

私とは波のようなもの…
媒体はあるが、私という実態はない…

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Kar

画像引用元

雪(2002)
著 オルハン・パムク
訳 和久井路子

舞台となるカルスはグルジェフ生誕の地…アルメニアやロシアの影響を強く受けている…クルド人居住区の最北端…今では辺境と呼んでいいのかもしれない…

東西が交差する場所とはいえ、国政の軸にはイスラムがあるのだろうと思って読み始めたのだけど、当時のトルコはその逆だということが次第に分かってくる…イスラムの教えが強いとはいえ、英雄とされるアタチュルクは国家を西欧化することを軸としていた…つまり国家、軍、警察の方が政教分離(世俗主義)を唱えるある意味無神論の側であり、ムスリムは国家から圧力を受ける存在だった(現在のトルコはエルドアン大統領の政策によって立場が再度逆転している)…

ハンチントンが指摘する相容れないものを見せられているようでもあり、グレーバーが指摘するように間の空間で民主主義が生まれる現場を見ているようでもあり…以下は小説内でイスラム過激派の中核とされる「紺青」(英訳ではBLUE)の言葉…

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THIS IS WATER

これは水です(2005)
著 デヴィッド・フォスター・ウォレス
訳 阿部 重夫

クルピチカはウォレスを愛読してるらしい…
そのウォレスのケニヨン大学でのスピーチ…

無神論なんてありえない…
唯一できる選択は何を崇拝するか…
初期設定とは違う思考法がある…

ウォレスはオートマティックという言葉を使う…
私の初期設定のことだ…
もしかしたら初期設定ではなく本質なのかもしれない…
私は常に私であろうとする…
繋がりに抗おうとする…

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ダーウィン事変

ダーウィン事変(2020- )
作画 うめざわ しゅん

連載中…4巻まで読んだ…デリケートな問題を扱っている…作者がヴィーガン寄りなのかはわからないし、この先どういう展開になるのかも分からない…とはいえおそらくだけど、作者の理解は自分に近い印象…

マンガ大賞を受賞しているんですね…チャーリーとルーシーは難しい理屈よりも自分の感じ方に従順だ…その辺注目だし、読者には彼らの感じ方や考え方を追って欲しい…特にチャーリーはどこにも属していない…これから難しくなるかもしれないけど…

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채식주의자

菜食主義者(2007)
著 ハン・ガン(韓江)
訳 きむ ふな

暴力とは…
人間特有の歪んだ様相だと思う…
動物の捕食や火山の爆発、津波とは違う…

暴力は文明とともにある…
理性によって作られる…
意味によって作られる…
私によって…

暴力は恩恵と犠牲の構造に関わっている…
恩恵のために犠牲に目を瞑ること…
意味が作り出すもの…

恩恵が恩恵を守ろうとする…
恩恵の連鎖…

人は暴力に頼って生きている…

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Die linkshändige Frau

左利きの女(1977)
著 ペーター・ハントケ
訳 池田香代子

孤独をなぞるような描写が続く…
最後だけ戯曲を思わせる展開になる…
かといって何かが大きく動くわけではない…

仕事とか遊びとか…文明人らしい行為としての…
それは孤独に背を向けることかもしれない…
逃げること…ある意味動力にはなってる…
でも向き合ってはいない

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よだかの星

よだかの星(1921)
著 宮沢賢治

動物たちが食べ食べられることに優劣はない…
損得や優劣は人がそう見ているだけなのだろう…
自然界は水の中の水だ…

自己犠牲とは言うものの…
それは失うことなのだろうか…

自分とは傷のようなもの…
自分を、理性を、意味を解くこと…
傷を癒すこと…
自然に還ろうとすること…

https://hitkeas.com/2022/04/23/czuly-narrator/
https://hitkeas.com/2020/12/12/ビジテリアン大祭/

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Die Angst des Tormanns beim Elfmeter

ペナルティキックを受けるゴールキーパーの不安(1970)
著 ペーター・ハントケ
訳 羽白 幸雄

物語は中心を持たず、枝葉だけが淡々と描かれ、繋がりを持たない断片がそのまま記憶となり経験となっていく…物語とはあとから興味関心でフィルタリングしたものなのだろう…

意味とは力であり歪みであり勘違いだ…

イビチャ・オシムが亡くなった…
ちょうどストイコビッチがセルビアを率いているときだった…

1972 映画「ゴールキーパーの不安」*ハントケ脚本
1975 映画「まわり道」*ハントケ脚本
1987 映画「ベルリン・天使の詩」*ハントケ脚本
1988-1991 ソ連崩壊(1989 ベルリンの壁崩壊)
1990 FIFA WCイタリア大会 *ユーゴ、ベスト8
1991-2001 ユーゴスラビア紛争(1992-1995 ボスニア紛争)
1995 映画「アンダーグラウンド」*ベオグラードが舞台
1999 NATOによるセルビア空爆
2004 映画「アワーミュージック」*サラエヴォが舞台
2019 ハントケ、ノーベル文学賞受賞

気難しく、敵も多い作家のようで…主に争点となるのはNATO空爆批判になるのかな…ただクストリッツァは理解を示してるし、アンゲロプロスも賛同していたようだ…ヴェンダースとの親交も続いている…

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苦雨之地

雨の島(2019)
著 呉 明益(ウ・ミンイ)
訳 及川 茜

自然を舞台にしているというよりも、自然の一部としての人間を描いているような、そんな話だ…資料とノンフィクションに頼る通常のネイチャーライティングとは違う…フィクションであると同時に、自然に深く分け入る内容でありながら近未来の設定だ…それが逆に人の原点をうまく透かして見せてくれているように感じた…作者の言葉を借りるなら「結局のところ、人類の文明はどの段階をとっても(フィクションを生み出す能力と想像力を含めて)自然環境と私たち自身の生物的本質との関係から切り離せない」…呉明益は画家でもあり、6つの物語にそれぞれ精緻な絵を添えている…

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Czuły narrator

優しい語り手(2021)
講演 オルガ・トカルチュク
訳 小椋 彩 久山宏一

ポーランドも帝政ロシアの一部だった…
いま著者は何を思うのだろう…
本書はノーベル文学賞受賞の際の記念講演を書籍化したもの…
以下まとめてみた…

𝚿 𝚿 𝚿 𝚿 𝚿 𝚿 𝚿

世界は言葉でできている…
語らなければ、在ることをやめて消えていく…

今、言葉が、視点が、神話が足りない…
世界を語る新しい物語が欠けている…

わたしたちは多声的な「一人称の語り」の中で生きている…
そこで人は主役になった…
英雄や神々の場から個人の歴史へと舞台は移行した…

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