帰れない山(2017)
著 パオロ・コニェッティ
訳 関口 英子
山登りという習慣はまだない…なのにここに書かれた風景や心象はよく分かる…山を走り始めたのは6年前…最初からその魅力にハマった…少し特殊かもしれないが、トレランの経験がこの本を理解できる土台になっている…読み始めは、あまりにも日頃感じていたことなので、むしろつまらないと感じたほどだった…
自然の描写が決して脇役ではない…ネイチャーライティングと言えるのかもしれない…ただ呉明益の作品のように幻想的でもなければ、キリアン・ジョルネの作品のように過酷でもない…こちらのエピソードはいい意味でありふれているし、力が抜けている…
「山の上まで来ると渓流も声を潜め、そこから先は、水が岩と岩の間に浸み込んで、地中を流れていく。すると、はるか下の方から響く音が耳につくようになる。窪地を吹き抜ける風の音だった。湖面は、絶え間なく揺れ動く夜空のようだった。風が、一方の岸から反対側の岸へと小波の連なりを追い立てる。すると、流線に沿って黒い湖面に並んでいた星々の光が消えたかと思うと、今度は別の方から光るのだった。僕は身じろぎもせずに、そこに描き出される模様に見入っていた。人がいないときにしか見せない山の営みを垣間見たような気がした。決して邪魔することのない僕を、山は客人として快く受け入れてくれた。だから僕も、山と一緒ならば孤独を感じることもないだろうと改めて思うのだった。」(p201-202)