STRANGER

ジム ジャームッシュ インタビューズ
編 ルドヴィグ・ヘルツベリ
訳 三浦 哲哉

■ There is no paradise
Harlen Jacobson/1984

■ “East European director”
Peter Belsito/1985

タイトルの意味が少しずつ見えてくる…
Stranger in Paradise を捩っているらしい…

「…僕はさかさまに書くんだ。つまり、語るべきストーリーがまずあってそのうえで肉付けしていくというのではなくて、まず最初にディテールを集めて、その後、パズルみたいにストーリーを組み立てていく。主題、ある種のムード、それからキャタクターはあっても、直線的に進むプロットはない。…プロットありきという考え方にはぞっとするんだよ。プロセスにこそなにかがあると考えていたほうがエキサイティングだ。僕の方からストーリーを定式化するというより、ストーリー自身が自分のことを僕に話し始めてくれるんだ。」(p32)

「パターソン」を観たときにも感じたことだ…
出来事が映画をリードしているわけじゃない…

「…金の役割というのがこの作品のサブ・テーマだった。ここでも金は、窃盗、詐欺、犯罪によって、あるいは棚ぼた式に手に入れるものであって、日々きちんと生活して、人生設計を組み立てて稼ぐようなものじゃない。必要があれば手に入れるものとでもいうかな。このテーマは今後も変わらないと思う。立身出世に取り憑かれたキャラクターになんて興味がわかない。アメリカンドリームなんて単純に言って、くだらないね。…これははみ出し者たちの映画だ。…野望とか出世とは無縁の物語を語るためのひとつのアプローチでもあったんだ。」(p34-35)

お金は利用するものとして生まれたはずだった…
いつからか立場が逆転していないだろうか…

「『労働者階級は天国に入る』という作品があって、工場勤めの男の役でジャン・マリア・ヴォロンテが出演してるんだけど、あるとき彼が会社を抜けて自宅に戻って家中のあらゆるものをぶち壊す場面がある。テレビ、ステレオ・アンプ、花瓶なんかをぶち壊しながら、そのあいだ中、そんなものを買うのに人生のどれだけの時間を費やしたのかをじゃべり続けるんだ。…まったくなんて素敵な場面だろうと思った。僕にもこんな気分はある…こんなものを買うために生きるんだったら、金なんてないほうがましだね。」(p36)

− パラダイスは存在したのですか?
「いや、存在しない。ロバの鼻先ににんじんをぶらさげてもしょうがないんだ。自分の身の回りに起きていることに直面すべきだと思う。…パラダイスは想像上のもので、自分を安心させて、落ち着かせるために自分のまわりにでっちあげるなにものかに過ぎないと思うね。現実じゃないんだ。僕はこの作品の登場人物が好きだ。ものごとを受け入れる彼らの態度、生き方が僕にとって大事なんだ。3人は、なんというか、社会からはみ出しているけど、生活環境を改善しようとやっきになったりなんてしない。ただ変化を求めているだけだ。新しいカードゲームかなにかを探すみたいな調子でね。」(p42-43)

「現実」という言葉の意味が通常とは逆になっている…
生活を支えるものを「現実」と呼ぶのが普通だろう…

「僕はアメリカ映画おきまりの出世主義みたいなものが嫌いだ。この登場人物たちにはなんの野心もないし、インテリでもない。だからこの映画は実存主義映画なんかじゃない。彼らは意識的に自分の実存について、あるいは世界がどうなっているのかについて問いただしたりなんてしない。代わりに、ある種、現状を受け入れているんだ。次になんのカードゲームをやろうか考えるような気分で、この作品の中の世界をランダムに、目的なく旅してまわるだけで、哲学的解釈なんてもちだすことはない。」(p65)

映画の撮り方、お金に対する考え方、人生の捉え方、すべてが繋がってくる…
身動きがとれないような思想も嫌っている…

「…僕は今後も直接に政治的、イデオロギー的なものは作らないと思う。…ただ願わくば、観た人が自分たちのライフスタイルや価値についての考え方を変えるようなものだったらいいと思う。自分たちの人生について考えて、なにかが変わる、そういうものであってほしいね。」(p78-79)

パラダイスとは依存することで見えてくる幻想なのだろう…
お金、思想、筋書き…そういうものには用心すべき側面がある…
作られたレールの上をなぞっても、そこに価値は生まれない

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